置き去り防止装置の設置義務化を求める議論も広がるなか、埼玉県の認定こども園に勤めるソニーの元エンジニア男性が、システムを自作し、送迎バス2台に取り付けた。 いったい、どのような思いから行動に至ったのか。BuzzFeed Newsはこの男性を取材した。

送迎バスに不安を抱く保護者や園児のため

そう話すのは、埼玉県熊谷市の認定こども園「荒川こども園」の岡野祐太事務長だ。 大学卒業後、ソニーのエンジニアとして働いていたが、2019年に妻の家族が経営する同園に転職。 情報通信技術(ICT)の向上やホームページの運営などを任されており、課外でプログラミング講師もしている。 置き去り防止システムは30分ほどで完成したといい、園が所有する大型と小型のバス2台に設置した。

バスにボタン、職員室に電球

岡野さんは、「バス」と「職員室」を接続することにした。 バスが到着する前に職員室の電球が点灯し、運転手がバス車内の最後尾にあるスイッチを押さなければ、その電球が消えないようにしたのだ。 運転手はスイッチを押すために座席を見ながら後方に移動するので、車内の安全確認をより徹底することができる。 さらにバスを駐車場に停めた後、職員室で電球が消えているかどうかも職員と確認しているという。 参考にしたのは米国のスクールバスの安全機能。米バス大手「ICバス」はYouTube上で安全機能について紹介している。

信号を受け取ったら……

専門的な仕組みは、こうだ。 電球は「switchbotプラグ」というデバイスと連動しており、送迎バスの到着予定時刻より前に自動で点灯するように設定されている。 園児を送迎するバスには、車内後方に「MESHボタン」が設置されている。 MESHボタンを押すとバスに置いてあるタブレットに入れたMESHアプリに信号が届き、クラウドサービスを連携できる「IFTTT」に送られる。 IFTTTは「MESHから信号を受け取ったらswitchbotプラグをオフにする」とプログラムされている。 このため、車内のMESHボタンが押されると職員室の電球が消える仕組みになっている。

普段の安全管理も徹底

運転手は車内に置き去りや忘れ物がないか確認し、清掃・消毒作業を実施。教室では、保育士がアプリ経由で打刻された出欠情報と園児の顔ぶれを照らし合わせている。 これらの安全管理業務を徹底したうえで、さらに岡野事務長が作った装置で置き去りがないかどうかを確認している。

運転手や添乗員に厳しい目が……

「普段の確認作業を確実に実施すれば置き去りは絶対に起きません。ですが、それだけでは保護者の不安が拭えず、子どももバスを怖がってしまいます」 「事件後、運転手や乗務員にも保護者の厳しい目が向けられ、不安を感じていましたので、このような装置を導入してさらに安心してもらおうと思いました」 送迎バスのほかにも、園内の様子を映すカメラの映像を職員室などで確認できるようにするなど、ICT化を進めているという。

子ども以外の業務も多い保育現場

保護者対応、集金業務、清掃・消毒作業、バスの添乗のほか、園での様子を保護者に知らせる日記や写真の更新などもしなければならない。 荒川こども園でも新型コロナウイルスの影響で休園中、保育士が絵本を読む動画などを岡野事務長が撮影・編集し、保護者向けに配信した。 岡野事務長は「どのようなシステムを導入しても、人が介在している以上、人がしっかりしないとヒューマンエラーが起こるリスクは高くなる」とした上で、こう話した。 「業務に関しては、それぞれが業務に責任を持つことが大事だと思っています。そうした土台のもと、技術をうまく活用し、保育士が『子どもを見ることに集中できる環境』をさらに整えたいと思っています」

置き去り防止システムの設置義務化に向けた署名活動も

国は通知という現場への「お願い」を出しただけで、根本的な対策はまだ打ち出していないが、保育関係者や保護者からは、置き去り防止システムの設置義務化に向けた声も高まっている。 認定NPO法人「フローレンス」は9月12日、送迎バスへの置き去り防止装置設置義務化と導入支援等を求める署名キャンペーンを開始。 20日午後5時現在、3万3000人以上が賛同している。 また、小倉少子化相は送迎バスに置き去り防止システムを導入する施設に、財政支援を行うことを検討する考えを示している。 置き去りに関する再発防止に向けた緊急対策も10月にまとめる方針という。

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