検察側は論告で「不合理な差別も許されない」「歪んだ憎悪心は容易に矯正できない」などとして、懲役3年を求刑。弁護側は被告による謝罪文を読み上げたほか、最終弁論では執行猶予付きの判決を求め、結審した。 被告は最終意見陳述で「恐怖を感じさせ、誠に申し訳ございません」などと語った。一方、被害者であるコリア国際学園の理事長も法廷に立ち、「ヘイトクライムという恐ろしい犯罪は、差別や偏見に根差すもの」などと厳罰を求めた。 (注:事件の実相を伝えるため、この記事には差別・暴力表現が含まれます) また、4月5日には同府茨木市のコリア国際学園に侵入し、広場に置いてあった段ボール箱にライターオイルを染み込ませ、ガスバーナーで火をつけて床を焼損させた。 さらに5月4日には、大阪市淀川区の創価学会・淀川文化会館の敷地に侵入。窓ガラスをコンクリートブロックで割った。犯行は3事件とも夜間で、いずれもけが人はいなかった。 いずれの事件でも起訴事実を認めている被告は、前回の公判で3つの事件の動機について言及。 「立憲民主党は日本を滅亡に追い込む組織」「在日韓国・朝鮮人を野放しにすると日本が危険に晒される」「創価学会も日本を貶める組織」だと思っていたことから、犯行に及んだとした。いずれも、1年ほど前に自分のアカウントを開設したTwitter上で読んだ、根拠のない情報などを信じ込んだとみられる。 また、辻元氏の事務所とコリア学園を狙った犯行では、関係者や生徒らの個人情報を入手しようとしたとし、「嫌がらせをして、日本から追い出す」目的があったとも明かした。 在日コリアンに対する「嫌悪感」もあったと述べており、憎悪感情を根底にした「ヘイトクライム」であることが明らかになったといえる。

「謝罪文」に記したこと

被告は前回の裁判までに、謝罪・反省文を書いていなかった。検察側からは「反省を示していない」と指摘され、「(辻元事務所には)考え方には賛同できませんと嫌味を含んだ表現になってしまうと思い書けなかった」「(ほかの2者には)どう書けばいいかよくわからなかった」「求められれば書こうと思います」などと述べていた。 その被告が、改めて3者に対してしたためたという文章の要旨は、それぞれ以下の通りだ。 「立憲民主党は中国と北朝鮮による日本の植民地化を進める組織で、日本人を滅亡させると極端に思い込んでいました。暴力や犯罪行為はもっとも愚かなもので、誰からも賛同されず、逃げきれません。自分の意見を伝えるときは違法行為や人を攻撃しないようにしたい。辻元さんにはぜひ立憲民主党の代表になっていただきたい」(辻元氏に対し) 「北朝鮮の拉致、ミサイルなどの情報から、在日朝鮮人は日本人に敵意をもち、財産・命を奪う存在であると思い込んでいました。会う機会もなく、独断と偏見から、力づずくで排除しないといけないと思っていました。このようなことをした自分が日本から出ていけと言われても仕方がない。人間としての心を失っていました」(コリア国際学園に対し) 「創価学会は日本の未来を脅かす組織と断定し、卑劣な宗教団体は暴力で排除するしかないと思い込んでいました。不確定な情報をもとに悪であると決めつけ、暴力を過信していました」(創価学会に対し) そのうえで、「迷惑をかけ、恐ろしい思いをさせ申し訳ありません」「暴力・犯罪行為は多くの人を傷つけ、自分は多くを失う。賛同もなく、反感を持たれます。もう二度としません」などともしている。

「射殺」に言及したツイートも

「在日コリアンを日本から排除しようという目的で当学園の名称を狙ったとも聞き、私は恐布と不安と怒りを感じました」 「学園に対するヘイトクライムという恐ろしい犯罪は、在日コリアンに対する差別や偏見に根差すものです」 また、被告が自らの情報源としていたTwitterで「韓国人の射殺が合法化されないかなぁ」「もう日本人に朝鮮人の射殺許可出してくれよ」とツイートしていたことについても言及。 「ヘイトクライムにとどまらず、在日コリアンを抹殺しようとするジェノサイドまで扇動していることに、底知れない恐怖と不安に襲われています」 そう語った金理事長は、あえて被告を「君」づけで呼び、ときに諭す場面もあった。 「太刀川君にも、国籍や民族に関係なく、お互いが名前で呼び合うような在日コリアンの友人や知人がいれば、果たして、太刀川君が今回のような恐ろしい事件を起こせたのだろうかとも想像します」 そのうえで「在日コリアンだというだけで、いつどこで誰に狙われるかわからないという漢然とした不安を感じるのです」と思いを吐露。司法、そして社会に対し、以下のように求めた。 「インターネットやSNSで得られる情報だけで直情的な犯罪に流されていくモンスターを生まないような対策をとることが、急務であると思います」 「そのためには、太刀川君を厳しく罰するだけで終わるのではなく、ヘイトスピーチに対しても罰則を科し、ヘイトクライム事件に対しても厳しく処罰できるようにして,次の太刀川君が現れないようにしてほしいのです」 「特定の政治思想、国籍、宗教を狙った犯行。憲法で思想信条の自由は認められている。不合理な差別も許されない。酌量の余地はない」と厳しく非難した。 さらに「社会的影響力」の大きさにも言及。特定の属性にあるというだけで落ち度のない被害者が狙われていることからも、「強い不安」をもたらしたとした。 反省しているといいつつも再犯の可能性が高いとも指摘。「歪んだ憎悪心は容易に矯正できない」とし、創価学会には示談金が支払われていることや、父親が管理監督を約束していることを踏まえても、一定期間の矯正が必要として、懲役3年を求刑した。 一方、弁護側は、被告が事件を認めていることや、謝罪もし、「二度と繰り返さない」と反省していると主張。 「SNS情報で敵意持ち暴力に走った被告は、いまでは自らの情報の取得が偏っていると認識している。これからは人とも話し、根拠も求めることで、短絡的に判断しないようにする」などとして情状酌量を求め、執行猶予付き判決を求め、結審した。 被告は最終意見陳述で「被害者の皆様に恐怖を感じさせ、誠に申し訳ございません」などと語り、「暴力・犯罪の卑しさ、己の浅はかさに気づきました」「今後は悪意を持って他者を攻撃しないことを誓います」などとも述べた。 判決公判は12月8日午前10時に予定されている。

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