リュウジさんのレシピは、うま味調味料「味の素」をよく使うことで有名だ。 うま味調味料の正体である「グルタミン酸ナトリウム」は、健康被害や味覚障害を引き起こす、という風評被害に長年晒されてきた。 科学的に安全という見解が出ても「なんとなく不安」という声も根強い。一般向けのレシピ本や料理雑誌で「味の素」を使うのは“タブー”だったと言う。 リュウジさんは、なぜその禁忌を破り「味の素」を使い始めたのか。 (前編はこちら)

「うまみ」って何か、実はみんな知らない

――ここからはうま味調味料「味の素」の話を聞いていこうかと。 いいんですか? 俺、多分6時間くらいできますよ、味の素の話。 ――リュウジさんが「味の素」を科学的に説明したBuzzFeedの記事を引用してくれるたびにものすごく読まれるので、今日はガッツリ聞く気で来ました。十二分にお願いします。 全然使わなかったですね。というのは、もともと自分が学んでいたイタリアンでは使わないんですよ。 イタリアンにおけるうまみはチーズなんですよね。チーズをたくさん使うから、うま味調味料を使う必要がないんです。 その頃は、珍しいチーズや高いチーズを買い集めて、いろいろ試行錯誤していましたね。使わなくていい、どころか「使う意味がわからない」くらい正直思っていました。 なんですけど……そのあと料理人として働き始めたイタリアンレストランがめちゃくちゃ味の素を使ってる店だったんですよ。しかも、お客さんにはおいしいって大評判の超人気店だったんです。 最初はすごい衝撃で。「嘘でしょ?俺のこれまでの研究なんだったの?」って。なんなら反発心すら芽生えるくらいでした。 でも、結局は食べる人がおいしければいいじゃないですか。くだらないプライドいらないな、と思ってそこで宗旨変えしました。 そうなんですけど、説明するのが難しいところでもあるんですよね。 というのは「うまみ」って何か、ほとんどの人は認知できていないんですよ。 「酸っぱい」「辛い」はわかるけど、「うまい」ってどんな味かわからなくないですか? ――たしかに。「おいしい」とごっちゃになってます。 そう、そうなんです。うまみ=うまい、ではないんですよ。言葉が似てるから勘違いしやすいんですけど。 「酸っぱい」や「辛い」にレベルがあるのと同じで、「うまい」のレベルがあるんですよ。プロはそこが舌でわかるので料理がやりやすいんです。 つまり、「激辛」もあるし「激うま」もあるんです。日本は出汁文化なので、基本はうまみが強いほうが好まれる傾向にあると思います。

結局、反発するのは「わからないから」

――そう思うと、顆粒だしや白だしはよく使うのに、なぜうま味調味料は特段嫌われているんでしょうか。リュウジさんは批判派とも向き合っていますが、気付いたことはありますか? この白い粉がなんなのかわかってない。舐めてもなんの味かよくわからない。料理に入れたところで、劇的に味が変わるわけじゃない。見た目もなんか怪しい。 その得体のしれなさですよ、根源は。 ――自分も漠然と「避けた方がいいのかな?」という気持ちがありましたが、不安感と言われるとそうかもしれません。 例えば、顆粒だしや鶏ガラスープは、うま味調味料に味をつけて、初心者向けに調理のイメージをつけやすくしているんですよね。 そうすれば「これくらい入れるとこんな味になるんだな」って想像がつくじゃないですか。だから怖くなくなる。 実際、味も香りもなくて「うまみ」だけつけたいという状況は、わりと特殊な状況なんですよね。なので、やってみるとわかりますが、味の素使いこなすのってかなり難しいですよ。 「魔法の粉」みたいに思っている人も多い気がしますけど、とにかくかければなんでもおいしくなるわけじゃないんです。たっぷり使ってもチープな味になっちゃうし、少なすぎるとパンチが足りなくなっちゃう。 それめっちゃよく言われるんですけど、その表現が俺、全然わかんないんですよね〜……。どういう意味なんだろう? 辛いのが苦手な人がいるように「うまみ」に対して耐性がない、薄い方がおいしいって人はもちろんいると思うんですけど、それは「馬鹿舌」ってより好みの世界ですからね。 「素材の味を殺す」とか言われても、そもそも料理って素材の味を打ち消して違う味をつける行為だからなぁ。 素材の味がそんなに大事だったら全部生でかじった方がいいと思いますし、塩もつけるのやめたほうがいいですよね。塩、素材の味、邪魔しまくってますから。 そういうのを突き詰めてやっている人はめちゃくちゃカッコいいと思うんですよ。野菜は生、肉は焼くだけ、調味料絶対つけません!みたいな。 でも、味の素はダメだけど、塩も醤油もみりんもコンソメキューブも使うよ、おいしいからね、は「いやいや、ちょっと待ってくれよ!」ってなりますね。素材の味の話、どこいった?って。 例えば、最近動画でよくやっているのは、鰹節を粉々にしてチンして、そこに味の素を何振りかする方法なんですけど。 ほんだしは料理に使いやすいように塩分が含まれているので、料理によっては使いにくいんですよね。しょっぱくなりすぎてしまう。でも「鰹節+味の素」だと、塩分を抜いたほんだしを家で作れるんです。 そんな風に、レシピで味の素を使う時は必ず合理的な理由、うまみだけが必要なロジックがあるんですけど、なかなかそこは伝わらないですよね。「また味の素入れてる!」だけが独り歩きして叩かれて……。 また味の素!とか言いますけど、結構難しいですからね、うまく使うのって。 だからまぁ、全然使いこなせてない人に文句言われるのもなんか嫌なんですよ。 「やれば使いこなせるけどあえて使わないよ」って人はそういうポリシーでいいと思うんですけど。 味の素について科学的な知識も正しい使い方もどちらも知らず、自分が知らないからって「体に悪い」とか「使うと馬鹿舌になる」とか言うの、めちゃくちゃカッコ悪くないですか……? 野球中継見ながら、監督の采配にヤジ飛ばすおっさんと同じですよ。 (後編に続く)

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